大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和42年(行ケ)1号 判決 1968年9月30日

原告 宮脇勝次郎 外四名

訴訟代理人 柘植欧外 外二名

被告 岐阜県選挙管理委員会

訴訟代理人 堀家嘉郎 外六名

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「昭和四二年四月二八日施行の根尾村長選挙及び根尾村議会議員選挙に関し、訴外黒下義行、同田中義民、同小野島平、同宮脇孝男の四名からなした審査申立について、昭和四二年八月二五日被告がなした右各選挙を無効にするとの裁決はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因および被告の主張に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

一、原告等は、昭和四二年四月二八日施行の根尾村長選挙および根尾村議会議員選挙(以下本件選挙という。)の選挙人であり、同時に原告大堀惣一は、右村議会議員選挙における当選人である。

二、訴外黒下義行、同田中義民の二名および訴外小野島平、同宮脇孝男の二名から、それぞれ本件選挙に関し、根尾村選挙管理委員会に対し、選挙の効力に関する各異議申立がなされたが、昭和四二年五月二六日右選挙管理委員会において、右申立人等の各異議申立は棄却された。

三、ところが、右申立人四名はこれを不服として、被告岐阜県選挙管理委員会に本件選挙の効力および当選の効力に関する審査申立をなしたところ、被告は、右申立人等の請求を容れ、昭和四二年八月二五日、「昭和四二年五月二六日根尾村選挙管理委員会のなした決定は取消し、昭和四二年四月二八日施行の根尾村長選挙及び根尾村議会議員選挙は無効とする。」との裁決をなした。

四、本件裁決は、要するに、根尾村役場における不在者投票は立会人を欠いていたこと、本件不在者投票につき根尾村選挙管理委員会はほとんど不在者投票事由の審査を行わず、機械的に投票用紙および投票用封筒を交付して漫然と不在者投票をさせたこと等、公職選挙法(以下単に「法」という。)、同法施行令(以下単に「令」という。)に定める不在者投票の管理執行に関する規定違反があり、これが選挙の結果に異動を及ぼす虞があることを理由とするものであるが、つぎに述べるごとく、本件不在者投票に関してはなんら被告主張のごとき違法の廉はなく、本件裁決が前記のごとく選挙無効の原因ありとなしたのは、法の誤解か認定の誤りに出でたものにほかならず、取消を免れないところである。以下、被告主張の違法事由につき、原告等はつぎのとおり陳述する。

(一)  不在者投票管理者が管理していない場所で不在者投票がなされたとの点について。

被告主張にかかる、後掲二、(一)の事実中、本件選挙における不在者投票数および根尾村における不在者投票数、同村選挙管理委員会委員長吉田虎吉が不在者投票管理者であつたこと、ならびに同村における不在者投票のなされた期間の点は、いずれも認めるが、その余の点は否認する。

本件不在者投票は選挙管理委員会委員長吉田虎吉が管理し、書記川口武雄、同宮脇茂の補助執行によつて管理されていたものであり、仮りにしからずとするも、選挙管理委員会より委任された書記川口武雄の管理と役場職員の補助によつて管理されていたものであつて管理者不在との主張は当らない。

しかして、「管理」とは物理的である必要はなく、選挙管理委員会委員長または川口武雄が村役場二階の投票記載場所に現存していなくても、役場の規模、構造に照らし、たとえ管理者が一階にいても、その管理は二階の投票記載場所に及ぶものと解すべきである。本件不在者投票に当つては、役場職員二名以上が二階に同行するのを原則としたが、そのうち一名は管理者またはその補助者であり、一名が立会人であつた。

(二)  投票立会人を欠いたとの点について。

被告主張にかかる、後掲二、(二)の事実中、投票記載場所の設備については争わないが、その余の主張事実はすべて否認する。

根尾村役場における本件不在者投票については、選挙人の申出に応じ、一階受付において担当書記または選挙事務従事者が選挙人名簿の対照を行い、不在者投票証明書または疎明書を徴した後、甲第一号証の一ないし一四中、立会人欄記載の者(これらの者は根尾村選挙人名簿に登録されている。)が立会人となつて投票に立会つたものであり、被告主張のごとき違法はない。

また、役場職員一名のみが立会つたという被告の主張に対しては、常に二名が立会つていた(一名は不在者投票管理者または管理補助者として)と反論するほか、仮りに一名の立会いであるとしても(一)に記述した趣旨における管理が存在する以上、役場職員一名が立会つたのみでも、不在者投票は無効ではないと解するのが相当である。

(三)  不在事由の証明ないし疎明に関する違法があるとの点について。

被告主張にかかる、後掲二、(三)の事実中、別紙「不在者投票者一覧表」記載の九五名が不在証明書を提出せず、疎明書をもつて投票用紙および投票用封筒の交付を受け、不在者投票をなしたことは認めるが、その余はすべて否認する。

被告主張にかかる、不在事由の記載がないとされる者については、すべて口頭による不在事由の説明があつたものであり、担当者が右事由を確認の上、投票用紙等を交付していたものである。特に、8杉本武雄については、同人より選挙事務従事者山田良雄に対し東京へ旅行するため不在となる旨口頭および不在者投票用紙及び同封筒交付請求書に記載して申出がなされたところ、当時右山田の手元には疎明書用紙が品切れとなつていたので、疎明書は後日作成することとして、不在者投票を許可したことが明らかになつている。そして、爾余の不在事由の記載のないものは、いずれも出稼を不在事由とするものである。

その他法定の不在事由に該当しないとされる者および選挙当日根尾村にいたことが明白であるとされる者については、いずれも、法四九条に該当する事情があり、しかも疎明書上の記載に不備な点があるものについては、すべて口頭により不在事由の確認がなされたものである。

なお、根尾村のごとき僻地にあつては、不在投票者に対し証明書の提出を求めることは事実上行い難いことであり、むしろ投票を拒否するにひとしいこととなることを付言する。

(四)  投票権のない者に不在者投票をさせたとの点について。

被告挙示の者等は、選挙当日いずれも根尾村内に住所を有していたものであり、被告のこの点に関する主張は理由がないが、仮りに選挙当日右の者等が根尾村内に住所を有していなかつたとしても、選挙管理者としては選挙人名簿に登載されている以上、投票を拒絶しえないから、右のような瑕疵をもつて選挙全体の無効原因となるとの主張は、明らかに失当である。

(五)  「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に当るとの点について。

(1)  被告主張にかかる、後掲二、(五)の事実中、村長選挙および村議会議員選挙についての各得票数は認めるが、その余は争う。

(2)  原告等の前記(一)ないし(四)の各主張が失当であるとしても、被告主張にかかる理由に基づいて無効とされるべき投票は僅少にとどまるところ、本件裁決は右無効投票が九票以上あるものと認め、選挙の結果に異動を生ずるとしているのであつて、右認定は失当である。

(3)  仮りに九票以上の無効投票があつたとしても、根尾村議会議員の選挙については、当選人中、最多得票を得た訴外若森常次郎の得票数は一九五票であり、落選人中、最多得票を得ている訴外谷口藤作の得票数は一一四票であつて、その差は八一票であるから、一部無効投票が存在しても、選挙の結果に異動を生ずる当選人はごく一部であり、相当数の当選人の地位に影響を与えないことが明らかであるから、前記無効投票の存在は、一部当選人についての当選無効の原因たるにとどまり、根尾村議会議員選挙全体を無効ならしめるものではない。本件裁決には、右判断を誤つた違法が存在することは明らかである。

五、本件選挙については、なんら選挙の公正自由を害する事情はない。

(一)  本件選挙、特に村長選挙は、その投票数において明らかなとおり極めて激烈なものであつたが、これが山田八郎新村長の当選によつて終了するや、反山田派たる黒下義行ほか三名の者より根尾村選挙管理委員会に対して選挙無効等の申立がなされたのである。

その申立の要旨は、被告のなした裁決書中の記載に明らかなとおり、村選挙管理委員会等が特定候補者(山田八郎を指すことは明らかである。)と結託し、意識的に違法行為を敢行したというものであつた。その点本件紛争は田中儀一派対山田八郎派の争いであつた。

(二)  しかるに、被告のなした裁決中にも明らかなとおり、右申立人等が力説した不正行為は何一つ立証されなかつた。のみならず、選挙後の捜査によつて、田中儀一派には多数の選挙違反が発覚し、多数関係者が刑事処分を受けたのであり、これに反し、山田八郎派には刑事処分を受けたものはなかつたのである。

(三)  ところで、被告のなした裁決の理由は、もつぱら村選挙管理委員会の不在者投票に関する手続上の不備を責めるものであるが、根尾村における不在者投票は、過去すべての選挙につき今回と全く同様に施行されてきたのであつて、村選挙管理委員会は従前の方式に従つて本件選挙を執り行つたもので、何等特別の故意はなかつたものである。ここにおいて本件紛争は、従来のものを含めた選挙の方法が正当であるかどうかに関する村選挙管理委員会対被告との紛争に転化したのである。

(四)  以上のしだいで、本件不在者投票については、村選挙管理委員会および山田八郎派とも、何等の故意はなかつたのであるから、仮りに本件不在者投票の手続・方式に何らかの欠点があつたとしても、それは何等選挙の自由公正を害するところはなかつたのである。この点からいうも、本件選挙の結果は維持せられるべきである。

六、以上の理由により、被告のなした本件選挙を無効とするとの裁決は不当であるから、原告等はその取消を求めるため本訴請求に及んだしだいである。

と述べた。

証拠<省略>

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

一、請求原因事実中、(一)ないし(三)の事実は認める。その余の事実は争う。

二、本件不在者投票に関する管理執行手続にはつぎのごとき違法が存する。

(一)  不在者投票管理者が管理していない場所で不在者投票がなされた違法について。

不在者投票は、「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所」において行われなければならない(法四九条)。不在者投票管理者は、令五五条に規定されているが、本件選挙における不在者投票者一二二名のうち、同条二項二号に該当する者九名を除いて、一一三名については根尾村において不在者投票がなされたから、同条一項一号の規定により同村選挙管理委員会委員長吉田虎吉が不在者投票管理者である。不在者投票は昭和四二年四月二一日、二二日、二三日、二四日、二五日、二六日、二七日の七日間行われたが、委員長が投票所に充てられた同村投場に出勤したのは四月二六日午後のみであつた。

本来、法において「管理」とは物理的管理をいう(法六一条、六五条参照)。すなわち、管理者は投票所または開票所に臨席し、その監視のもとに行なうことにより投票または開票の公正を期しているのである。不在者投票が選挙管理委員会の委員長の管理がなされないで行われることは、法四九条、令五五条、五六条等の諸規定に違反し、当該不在者投票の無効となることは既に判例の指摘するところである。

もつとも、委員長に事故があるときは、地方自治法一八七条三項の規定により、委員長の指定する委員が代理をして不在者投票管理者となることができるが、本件選挙における不在者投票においては他の選挙管理委員会委員が委員長の代理として管理した事実はない。

よつて、本件不在者投票のうち、右一一三票は不在者投票管理者の管理しない場所において投票された違法がある。

(二)  投票立会人を欠いた違法について。

不在者投票者が選挙人として登録されている選挙人名簿の属する市町村において投票しようとする場合においては、不在者投票管理者は、当該市町村の選挙人名簿に登録された者を立ち合わせなければならない(令五六条二項)。およそ、選挙において資格ある定数の投票立会人の立会がなくしてなされた投票は無効票であり、かかる無効票を当選人の得票数から控除した結果を次点者の得票数と比較し選挙の結果に異動を生ずる虞があるときは選挙は無効となる。また、不在者投票に関し同一人が管理者と立会人とを兼ねた場合の投票は無効である。

本件選挙における前記不在者投票一一三票の投票方法をみるに、不在者投票記載場所は村役場二階の会議室の片隅に設けられており、選挙人から申出があつたつど、一階において選挙管理委員会書記または選挙事務従事者が選挙人名簿の対照を行い、不在者投票証明書または疎明書を徴した後、書記または従事者一名が二階の投票記載場所に案内し、そこで投票用紙に記入をさせた上封筒に入れて封をし封筒に署名させ、二階で封筒を受けとつた。右のごとく、本件不在者投票においては、令五六条二項所定の立会人を欠いていたものである。かくのごときは、投票用紙のすり替え、投票の勧誘等の選挙の公正を害する不正行為が容易に行われる可能性があるため、かかる投票は無効と解すべきであつて、右一一三票は無効とされるべきことは明らかである。

特に、本件においては、証拠調の結果、証人として出廷した不在者投票者三五名のうち、左記二〇名の投票の際には、村役場二階に設けられた投票所(および投票所のある広い会議室を含めて)には、役場職員一人が立会つたのみであつた。その管理手続違反は、きわめて重大であつて、かかる不在者投票の公正を害する虞があることは多言を要せずして明らかである。

1  吉田トラエ 8 杉本武雄 14 住井戊 31 吉田恭子

36 黒川典子 48 黒下千可 60 坂脇利光 61 坂脇福弥

62 坂脇ゑつ 68 宇佐見咲男 70 高野三郎 71 岩前保

76 黒田清子 79 旧井恵美子 83 小阪克子 84 松葉隆幸

85 松葉美代子 87 佐藤清 88 吉田陽子 33 一柳つぎえ

(三)  不在事由の証明ないし疎明に関する違法について。

不在者投票者のうち、別紙「不在者投票者一覧表」記載の九五名については、法定の証明書の提出がなく、もつぱら疎明書のみによつて不在者投票用紙および封筒が交付されている。

止むを得ない理由で法定の不在者証明書を提出することができない者に対しては、疎明によつて不在者投票を許すことは差し支えない。しかしながら、令五二条三項の疎明は、不在証明書を提出できない事由の疎明と不在事由についての疎明とを含むものであり、また不在事由が法律所定の場合にあたらないときは、選挙人が口頭によつて補充(疎明)したからといつて不適法な証明書が適法な証明書となるものではない、とされている。

本件においては、村役場係員が不在者投票者に対して、「不在証明書を提出できない事由」を質問しなかつたことは、証人として出廷した不在者投票者三五名が一致して証言するところである。

つぎに、「不在事由」の疎明については、「疎明書」と題する書面(乙第二ないし第九六号証の各二)を不在者投票者に交付し、各自に記入させて受理したのみであつて、ことさらに不在事由について、果して記載事項が真実であるかどうか、四月二八日の投票日にはどうしても投票に行くことができないかどうか、さらに選挙当日には転出によつて選挙権を失つており、ないしは失う見込であるかどうか等、不在者投票に必要不可缺の要件について何らの質問もなされていないことは、これまたすべての証人の一致して証言するところである。

このように、漫然たる疎明により、ないし疎明を全然行なうことなく、請求者すべてに不在者投票を許したことが管理手続の瑕疵に該当し、選挙の自由公正を傷付けたことは言をまたない。ことに、原告が自ら主張し、且つ証人の証言によつて窺われるとおり、本件選挙にあつては候補者間に激しい対立があり、悪質な選挙違反行為が行なわれたことを考えるならば、管理規定違反の明白な不在者投票を無効と判定すべきことは当然のことである。

なかでも、左記に掲げるものについては、その違法は一目瞭然である。

(1)  不在事由の記載が全然ないもの

8 杉本武雄 16 上杉寧子 17 浅野澄子 18 松葉光行 92 井上陽子

(2)  不在がやむをえない用事または事故によるものに該当しないもの、および選挙当日不在であることが明らかでないもの

5 白木忠正 9 川口栄子(なお同人の疎明事由欄には一旦「岐阜市に居住の為」と書いた後「居住の為」を抹消して「出稼のため」と加筆してある。) 11 川口照美(同上) 19 林泰弘 20 宮脇正子 23 羽田茂子 24 梅田美佐子 30 黒川幸子 39 竹内稜子 54 松葉良子 55 松葉兵左 57 横関美智子 67 黒川しずゑ 68 宇佐美咲男 69 中島富士子 70 高野三郎 71 岩前保 77 国井志津枝 79 国井順 81 林萩子 84 松葉隆幸 85 松葉美代子 87 佐藤清 88 吉田陽子 89 白木克子 90 小森喜吉 91 広瀬伍助 92 井上陽子

(3)  選挙当日根尾村にいることが明白であるもの

6 松葉弘(四月一日から四月三〇日岐阜市出稼と書きながら四月二三日には在村して投票している。)

10 一柳尚美 12 所年男(6松葉と同じ。) 15 所光男 20 宮脇正子 21 洞口明嘉(6松葉と同じ。) 25 山田千代松(6松葉と同じ) 26 山田勇(同上) 27 山田すずゑ(同上) 33 奈良村ミツヱ 43 佐藤修平 52 松葉一郎 59 中尾暉雄 60 坂脇利光 61 坂脇福弥 62 坂脇ゑつ 60 小森喜吉

(四)  投票権のない者に不在者投票をさせた違法について。

市長、町長または議会議員の選挙権者たるには、選挙の当日当該市町村内に住所を有することを必要とし(最高裁判所昭和二七・一・二五大法廷判決、民集六巻一号四〇頁)、不在者投票をした者が選挙期日において選挙権を失つているときは、その投票は無効である。

不在者投票管理者は、(1) 不在者投票当日、すでに村内に住所を有していない者には不在者投票を拒否しなければならない。(2) 不在者投票当日には投票権があつても、選挙期日までに村外へ転出した投票者の不在者投票は破棄すべきである。このため、封筒の表紙に不在者投票者氏名を記載することとされているのである。(3) 不在者投票の請求をする者に対して、投票の基本である選挙権の有無については、不在事由の疎明にあたつてはまず充分なる審査を尽すべく、万一これを怠つたため、容易に発見できたであろうところの選挙権の不存在を発見できないで、そのまま不在者投票を許したことは、管理手続の瑕疵に該当する。

本件において、右(1) (2) (3) に違反した無効投票は、つぎのとおりである。

(1)に違反するもの 六票

28 田中靖子(乙第二九号証の二) 47 山田義雄(乙第九七号証) 59 中尾暉雄(乙第九八号証) 79 旧井恵美子(乙第八〇号証の二) 83 小阪克子(乙第八四号証の二) 89 白木克子(乙第九九号証)

(2)に違反するもの 一票

47 山田義雄(乙第九七号証)

(3)に違反するもの 一二票

氏名  不在者投票のときの実際の住所

17 浅野澄子  岐阜市木之本町三丁目

24 梅田美佐子 岐阜市加納栄町五丁目

31 吉田恭子  岐阜市安良田町一丁目

36 黒川典子  岐阜市池田町

48 黒下千可  名古屋市港区九番町三五

60 坂脇利光  岐阜市長森切通一六四五

61 坂脇福弥  岐阜市長森切通一六四五

62 坂脇ゑつ  岐阜市長森切通一六四五

68 宇佐美咲男 岐阜県羽島郡岐南町下印食

70 高野三郎  浜松市葵町

76 黒田清子  岐阜市田神町二丁目

93 一柳つぎえ 岐阜市日光町一丁目

(五)  本件選挙においては、村長選挙の当選人山田八郎の得票数は一、三六三票、落選人田中儀一の得票数は一、三五六票で、その差は七票であり、村議会議員選挙における各候補者の得票数は別紙「根尾村議会議員選挙得票数一覧表」のとおりである。よつて、前示(一)ないし(四)の無効投票が、法二〇五条所定の「選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合」に該当するものというべく、本件選挙の無効であることは明白である。

と述べた。

証拠<省略>

理由

一、原告等は、昭和四二年四月二八日施行の根尾村長および根尾村議会議員選挙の選挙人であり、同時に原告大堀惣一は、右村議会議員選挙における当選人であること、訴外黒下義行、同田中義民の二名および訴外小野島平、同宮脇孝男の二名から、それぞれ本件選挙に関し、根尾村選挙管理委員会に対し、選挙の効力に関する各異議申立がなされたが、昭和四二年五月二六日右選挙管理委員会において、右申立人等の各異議申立は棄却されたこと、ところが、右申立人四名は、これを不服として被告岐阜県選挙管理委員会に対し、本件選挙の効力および当選の効力に関する審査申立をなしたところ、被告は、右申立人等の請求を容れ、昭和四二年八月二五日、「昭和四二年五月二六日根尾村選挙管理委員会のなした決定は取消し、昭和四二年四月二八日施行の根尾村長選挙及び根尾村会議員選挙は無効とする。」との裁決をなしたことは、いずれも当事者間に争いのないところである。

二、本件の争点は、もつぱら本件選挙における不在者投票の違法管理の有無に関するが、被告は、右不在者投票が選挙の管理執行に関する規定に違反する旨主張するので、順次これについて判断を加えることとする。

(一)  まず、被告は、本件選挙においては、不在者投票管理者が管理していない場所で不在者投票がなされた旨主張する。

不在者投票は、法四九条に基き「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所」において行わせることができる旨定められているのであつて、右にいう「管理」とは、不在者投票管理者たる市町村選挙管理委員会の委員長の管理権が、社会通念上、時間的、場所的に不在者投票記載場所に及んでいなければならないことは言をまたないが、必ずしも不在者投票管理者が常時投票記載場所に臨席し自ら不在者投票事務の執行に当る要はなく、不在者投票管理者の右のごとき管理のもとにおいて選挙管理委員会の書記をして右投票事務の補助執行をなさしめれば足りる趣旨と解すべきである。

けだし、不在者投票については、当日選挙に関し「投票管理者及び投票立会人の面前において……」と定める令三七条のごとき規定が設けられていないのみならず、実際上、不在者投票は通例連日にわたり、しかも投票時間中散発的に行われること、また複数の投票記載場所が設置される場合があり得ること等に鑑みれば、右のごとく解するを相当とするからである。

証人江崎阡二、同宮崎茂、同川口武雄、同松葉喜三郎、同吉田虎吉の各証言および弁論の全趣旨を総合すれば、本件選挙の不在者投票管理者は根尾村選挙管理委員会の委員長たる吉田虎吉であり、また同村役場吏員たる川口武雄が右選挙管理委員会より同委員会書記に任ぜられ、不在者投票事務の補助執行に当つていたこと、不在者投票管理者たる右吉田虎吉は、不在者投票の期間たる昭和四二年四月二一日より二七日までの間、同村役場に設置された投票記載場所に終始臨席していたということはなかつたが、右期間中選挙期日の告示のあつた四月二一日には朝より午後三時頃まで、立候補締切りの二四日には午後から同五時過ぎまで、投票管理者との打合せ会議の開かれた二六日には午前九時より午後二時頃まで、二七日には朝より午前一〇時頃まで同村役場に在席していたほか、ほとんど連日のごとく同村役場に赴いて不在者投票の状況を聴取したりなどして村委員会の書記等との連絡を保持し、常時不在者投票の緊急事務の処理に当り得る態勢にあつたこと、そして同委員会書記川口武雄が、同村役場吏員宮脇茂等の協力を得て不在者投票事務の補助執行をなしていたことを認めるに足り、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によれば、不在者投票管理者たる吉田虎吉は、同村役場に設置された不在者投票記載場所をその管理のもとにおいていたものとみるのが相当であるから、被告のこの点に関する主張は採用することができない。

(二)  つぎに、被告は、本件不在者投票においては投票立会人を欠いていた旨を主張するので、この点につき判断する。

本件選挙における不在者投票者一二二名のうち、令五五条二項二号に該当する者九名を除く一一三名が根尾村において不在者投票をなしたことは、当事者間に争いのないところ、各成立につき争いのない甲第一号証の一ないし六、八および九、乙第一〇九、一一〇号証、第一一二号証、第一一四号証、第一一六号証、証人吉田トラエ、同杉本武雄、同住井やゑ子、同住井戊、同黒下千可、同松葉一郎、同坂脇利光、同坂脇福弥、同坂脇ゑつ、同宇佐見咲男、同高野三郎、同岩前保、同渡辺恵美子、同小阪克子、同松葉隆幸、同松葉美代子、同佐藤清、同吉田陽子、同一柳つぎえ、同藤原司の各証言によれば、選挙人たる吉田トラエは四月二一日、杉本武雄、住井戊、黒下千可は同月二三日、松葉一郎は同月二四日、坂脇利光、坂脇福弥、坂脇ゑつ、宇佐見咲男、高野三郎、岩前保は同月二五日、渡辺恵美子、小阪克子は同月二六日、松葉隆幸、松葉美代子、佐藤清、吉田陽子、一柳つぎえは同月二七日、根尾村役場における不在者投票記載場所において不在者投票をなした者であるが、右の不在者投票者等は、いずれも同村役場の一階受付で、選挙人名簿の対照により登録者であることの確認を受け、不在投票事由を疎明した上、同役場二階の投票記載場所に案内され、同所において投票用紙および不在者投票用封筒の交付を受け、所定の手続に従つて投票用紙に候補者氏名を記載しこれを投票用封筒に入れて封をしその表面に署名して、直ちにその場に待機していた同村選挙管理委員会の職員に対してこれを提出したものであるが(右の選挙人等が登録されている選挙人名簿の属する根尾村において不在者投票をなしたものであることは当事者間に争いがない。)、同投票記載場所においては、右職員として臨席していたのは、同選挙管理委員会の書記川口武雄、選挙事務従事者加藤三智子、川村信子、藤原司、蜂矢敏等のうちいずれか一名にすぎず、この者によつて前記のごとき投票用紙および封筒の交付以下の投票事務が執り行われたこと、そして他に法定の立会人が実在せず、この者が投票立会人を兼ねていた事実を認めるに足りる。もつとも、証人加藤三智子、同川口一郎の各証言によれば、右不在者投票者のうち吉田トラエについては、その投票当時教育長たる川口一郎が右投票記載場所を通りかかり、選挙事務従事者の加藤三智子と共に、右吉田トラエの投票の状況を傍観していたことを認め得るが、不在者投票事務処理簿(甲第一号証の四)上右吉田トラエの投票立会人として記載されている加藤三智子の立会のもとに、右川口一郎が投票事務を執行したとみるべき事跡は全く存しないので、右事実をもつて前記認定の妨げとなすに当らない。証人川村信子、同山田良雄、同蜂矢敏、同加藤三智子、同川口武雄の各証言中、前記認定に反する各供述部分はたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、令五六条第二項によれば、不在者投票管理者は、当該市町村の選挙人名簿に登録されている者を投票立会人に選任して立合わせなければならないと定められているが、かかる不在者投票立会人をおくゆえんは、同立会人が公益の代表者として独立不覇の立場において投票事務の一部に参与し、主として投票事務の執行を監視し、選挙の自由公正を確保せんとするにあることは多言を要しないところである。従つて、投票管理者が立会人を兼ねることを得ないのはもちろんであるが、その補助執行者たる書記ないし選挙事務従事者が当該投票事務の執行に当りつつ同時に立会人を兼ねるがごときは許されないところとしなければならない。けだし、これらの者が投票の管理執行と立会を兼ねることは、実質的には立会人を全く欠く結果をきたし、立会人を選任して投票事務に立ち会わせることを定めた法の前記趣旨に全く背馳することとなるからである。前記認定のごとく、村選挙管理委員会の書記または選挙事務従事者が投票立会人を兼ねて不在者投票事務の執行に当つたものとみられる以上、少くとも前記認定にかかる不在者投票者一八名の不在者投票手続に関しては、これが公職選挙法、同施行令の定める不在者投票の管理執行に関する規定に違反し、選挙の自由公正を疑わしめるに足りるものであつて不正行為が行われ得る可能性を有することは明らかであり、かかる違法管理の事実は、現実に不正行為が存したと否とを問わず、後掲得票数の比較と相まつて選挙の結果に異動を及ぼす虞れあるものと解すべきである。

なお、原告等は、村選挙管理委員会の書記川口武雄が不在者投票の行われた際、同村役場の一階に在席し管理権を及ぼしていたものであるから違法ではない旨主張するが、右川口武雄が同役場の一階に在席していたという一事をもつてしては、適法な投票立会人を欠いたという前記違法管理の治癒されないことは論をまたないところである。

しかして、本件村議会議員選挙における最下位当選人峰矢義明の得票数は一一七票であり、落選人の最多得票数(次点者谷口藤作)は一一四票であつて、その差は三票であり、また本件村長選挙における当選人山田八郎の得票数は一、三六三票、落選人田中儀一の得票数は一、三五六票であつて、その差は七票であることは当事者間に争いのないところであるから、前記認定のごとく少くとも一八件に及ぶ違法管理が存する以上、右は選挙の結果に異動を及ぼす虞れありとしなければならない。

原告等は、仮りに本件裁決のいうごとく九票以上の無効投票があつたとしても、これが下位当選人の当落に影響を及ぼすに止まる場合には選挙全体の無効をきたすものではなく、単に当該下位当選人の当選無効をきたすにすぎない旨を主張するが、当裁判所は、前記説示したごとく、法四九条による不在者投票に関する違法は選挙の管理執行に関する規定違反として選挙の無効をきたすものと解するのであり、かかる投票事務の違法管理が単に下位当選人の当落に影響があることが確定されたとしても、選挙の人的一部無効が認め得ない以上、本件選挙全体の無効をきたすものと解するもやむを得ざるところとしなければならない(最高裁判所昭和二九年九月一七日第二小法廷判決、民集八巻九号一六四四頁)。

以上のとおりであるから、被告主張にかかるその余の違法事由を判断するまでもなく、被告が、根尾村選挙管理委員会の決定を取り消し、本件選挙を無効とする旨の裁決をしたのは相当であつて、右裁決の取消を求める原告等の本訴請求はその理由がない。

よつて原告等の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 井口源一郎 裁判官 土田勇)

不在者投票者一覧表、根尾村議会議員選挙得票数一覧表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例